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家族は「無料の資源」ではない|障害を社会で支える制度に必要な視点と、知的障害のある子の「本当の自立」

障害のあるお子さんが生まれてから、今日までの日々。 あなたは親として、どれほどの不安や孤独を抱え、どれほどの涙を流し、そしてどれほどの愛情をお子さんに注いでこられたでしょうか。

「この子が笑顔で、1日でも長く、幸せに生きていけるように」

その一心で、ご自身の時間や体力を削り、文字通り全身全霊で我が子を守り抜いてきたことと思います。まずは、今日までその手を離さず、一生懸命に走り続けてこられたご自身を、どうか最大限にねぎらってあげてください。本当に、本当にお疲れ様です。

しかし、月日が流れるにつれ、夜中にふと目が覚めて、胸が押しつぶされそうな不安に襲われることはありませんか?

「私たちが歳をとり、いなくなった後、この子は一体どうやって生きていくのだろう」
「親なきあと、誰がこの子の生活を支えてくれるのだろう」

この社会には、障害福祉に関するさまざまな制度が存在します。しかし、それらの制度の根底には、どこか無意識のうちに「最後は家族がなんとかしてくれるだろう」「家族が面倒を見るのが当たり前」という、目に見えないプレッシャーが存在しているのも事実です。

この記事は、長年お子さんのために走り続けてきた親御さんに宛てた手紙です。 「家族だから頑張らなければならない」という呪縛を少しだけ解きほぐし、お子さんの未来の暮らしと、本人の「本当の自立」を支える新しい選択肢について、一緒に考えてみませんか。

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家族は「無料の資源」ではない。愛と依存の境界線

①:社会制度に潜む「家族への甘え」

日本の障害福祉制度は、少しずつ充実してきたように見えます。しかし現実には、制度の隙間からこぼれ落ちる無数の出来事や、イレギュラーなトラブルへの対応は、依然として「家族の献身」に依存しています。

急な体調不良、就労先での人間関係のトラブル、パニックや情緒不安定への対応。それらが発生した際、福祉現場や行政から「ご家族の方、対応をお願いできますか」と連絡が入ることは日常茶飯事ではないでしょうか。家族の「無償の愛」や「義務感」という言葉のもとに、親御さんはすべてを一身に背負わされてきました。

しかし、はっきりとお伝えしたいことがあります。家族は、決して「無料の資源(リソース)」ではありません。

親御さんも一人の人間です。歳を重ねれば体力は落ち、心身の限界が訪れます。「親が倒れてしまってから、慌てて次の行き先を探す」のでは遅いのです。親御さん自身が自分の人生を大切にし、心からの笑顔でお子さんと向き合える「適切な距離感」を保つこと。それこそが、実は最も持続可能で、お子さんにとっても安心できる支援の第一歩なのです。

そして、兄弟への負担も考えなければなりません。残された、兄弟姉妹は親の代わりに

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②:愛情ゆえに「先回り」してしまう親心

もう一つ、家族だからこそ生じてしまう、とても切ないジレンマがあります。 それは、お子さんを深く愛しているからこそ、「失敗させたくない」「傷つけたくない」「苦労させたくない」と強く願い、無意識のうちに本人の目の前にある障害物を取り除いてしまうことです。

転ばないようにあらかじめ平らな道を用意し、間違えないように先回りして答えを教える。それは親として当然の、そしてあまりに深い愛情です。しかし、視点を少し変えてみると、その「愛のあるサポート」が、時に本人が身をもって経験し、失敗から学習し、成長していく機会——つまり「自立への切符」を奪ってしまっているかもしれないのです。

「自分一人でやってみて、できた!」という小さな成功体験や、逆に「失敗したけれど、なんとかリカバーできた」という経験こそが、将来を生き抜くための本当の力になります。しかし、家族という近すぎる関係性の中では、どうしても心配が勝ってしまい、手を貸さずに見守ることが難しくなってしまうのです。

③:きょうだいへの「見えないバトン」|その優しさに甘えすぎていませんか?

親なきあとの未来を想うとき、もう一つ、私たちが静かに目を向けなければならない現実があります。 それは、残された「兄弟姉妹(きょうだい)」への負担です。

「私たちが死んだら、この子の面倒はお姉ちゃん(お兄ちゃん)が頼りだからね」 「何かあったら、助けてあげるのよ」

何気なく口にしてしまう、あるいは、言葉にせずとも心のどこかでそう願ってしまうことはないでしょうか。 そして、残されるきょうだいたちもまた、親御さんの背中をずっと見て育ってきたからこそ、「自分が親の代わりに面倒を見るのは当然だ」「自分が支えなければならない」と、幼い頃からその重いバトンを受け取る覚悟を、ひとり静かに決めていたりします。

あなたがいない時、代わりに寄り添い、サポートしてくれるきょうだいたちは、いつも本当に優しく、無償の支援を提供してくれています。

でも、本当にそれでいいのでしょうか。

きょうだいには、きょうだい自身の人生があります。 自分の仕事、自分の恋愛、自分の結婚や新しい家族との生活、そして自分自身の夢。それらを「障害のあるきょうだいがいるから」という理由だけで、どこかでセーブしたり、諦めたりしなければならないとしたら、それはあまりに切ないことではないでしょうか。

きょうだいが、我が子を想い、手助けをしてくれること。それは義務ではなく、純粋な「きょうだいとしての愛」であるべきです。 その愛が、いつの間にか「逃れられない責任」や「当然の義務」に変わってしまったとき、家族の絆はいつしか歪んでしまいかねません。

家族の絆を「義務」で縛るのではなく、「温かい愛」のまま残してあげるために。 きょうだいに介護や支援のすべてのバトンを渡すのではなく、「社会という信頼できるチーム」にバトンを渡す仕組みを、今から親である私たちが用意してあげなければならないのです。

「本当の自立」とは何か?当事者ができることを奪わない支援

①:自立=「何でも一人でできること」ではない

私たちは、知的障害のあるお子さんの「自立」について、ハードルを高く設定しすぎているかもしれません。 本当の自立とは、「身の回りのことや仕事を、何でも一人で完璧にこなせるようになること」ではありません。

「自分にできること」と「できないこと」を本人なりに理解し、できないことに出会ったときに、適切な相手に「助けて」「手伝って」とSOSを出せること。そして、限られた選択肢の中からであっても、自分の意思で「これにしたい」と選び取り、自分の人生を自分で決めていくこと。それこそが、私たちが目指すべき「本当の自立」の姿です。

私たち「ゆいまち」がグループホームを運営する上で、最も大切にしている哲学があります。 それは、「当事者ができることを、支援員は絶対に奪わない」ということです。

たとえば、靴を履く、服を着る、ゴミを捨てる。スタッフが手を貸してパパッとやってしまう方が、時間はかかりませんし、業務としても圧倒的に効率的です。しかし、私たちはグッと手を後ろに回し、本人を信じて見守ります。

家族ではない「第三者のプロ」だからこそ、感情に流されすぎず、適切な距離感と patience(忍耐)を持って、本人が自らの力で一歩を踏み出すのを待つことができるのです。

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②:【事例】自閉スペクトラム症のTさんが「仕事を辞めたい」と言った日

ここで、実際に「ゆいまち」で暮らしているTさん(自閉スペクトラム症)のエピソードをご紹介させてください。

Tさんは、相手の感情やその場の空気を読んだり、言葉の裏にあるニュアンスを汲み取ることが少し苦手な特性を持っています。その一方で、自分の主張やこだわりをはっきりと持っており、譲れない強さもある青年です。

ある日、Tさんは就労先で支援員の方と意見がぶつかってしまい、折り合いが悪くなりました。彼は非常にストレスを感じ、「今の仕事を退職したい」とポツリと漏らしたのです。

もし、この状況に親御さんが直面したら、どのように対応されるでしょうか。 「ここで仕事を辞めてしまったら、次がないかもしれない」「せっかく就職できたのだから、何とか我慢して続けなさい」「お父さんやお母さんがいなくなったら、どうやって生活していくの!」 将来を案じるからこそ、強い気持ちで説得し、退職を思いとどまらせる方向に持っていくのが、親としてのリアルで切実な愛情だと思います。

しかし、私たち「ゆいまち」のスタッフが取った行動は、全く異なるものでした。 私たちは、「前途多難かもしれない。でも、まずは彼が思った通りにやらせてみよう」と決めたのです。

③:失敗する権利を守り、選択を尊重する

私たちはTさんの「仕事を辞める」という意思を最大限に尊重し、退職の手続きを見守りました。 退職後、彼は自分の足でハローワークへ行き、新しい勤務先を探し始めました。面接の準備をし、履歴書を書き、なんと自力で新しい一般就労の仕事を勝ち取ってきたのです。

もちろん、新しい職場でもこれから様々な壁にぶつかるでしょう。再びコミュニケーションのすれ違いが起きるかもしれません。しかし、「自分の意思で選択し、行動し、新しい道を切り拓いた」という生々しい経験は、何ものにも代えがたい彼自身の「自信」と「財産」になります。

なぜ、私たちは彼にこのような「冒険」をさせることができたのでしょうか。単に無責任に放り投げたわけではありません。そこには、二つの強力なバックアップ体制、すなわち「セーフティネット」を用意していたからです。

  1. 相談支援専門員さんとの「チーム」の打ち合わせ 彼が退職を決意した段階で、私たちは地域の相談支援専門員さんとあらかじめ緊密に連携を取り、綿密な打ち合わせをしていました。「もし今回の一般就労へのチャレンジがうまく定着しなかったとしても、次は彼の特性に合った別の居場所や就労継続支援の事業所を、みんなで一緒に探しましょう」と、万が一転んでしまったときの「受け皿」をあらかじめ作っておいたのです。
  2. 障害年金だけで暮らせる安心設計 「ゆいまち」のグループホームは、ご本人が受給している「障害年金」の範囲内だけで十分に家賃や光熱費、食費を賄い、生活が成り立つように設計されています。つまり、「もし仕事が長続きせず、一時的に無収入になったとしても、ゆいまちに居さえすれば生活が破綻することはない」という絶対的な物理的セーフティネットが存在します。

この2つの盾があるからこそ、私たちは心からの余裕を持って、「失敗しても大丈夫だから、思った通りにやってごらん」と、彼の背中を押すことができたのです。

これからの長い人生の中で、自分で考え、チャレンジし、選択すること。失敗を繰り返しながら、自分自身が生きやすい場所や職場、暮らし方を見つけ出していくこと。 まだ始まったばかりのTさんの挑戦を、私たちは決して先回りして奪うことなく、ただ温かく、必要な時にサポートできるよう見守り続けます。それこそが、私たちの考える「自立に向けた支援」です。

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「一人暮らし」と「施設」の中間。アパート型グループホームという希望

親なきあとの我が子の生活を考えたとき、これまでの選択肢はどこか極端になりがちでした。 「完全に一人でアパートを借りて生活させるか(一人暮らし)」、それとも「多くの人と集団生活を送る、大規模な施設に入るか」。

しかし、一人暮らしは防犯面や食事の偏り、孤立、生活リズムの乱れなど、親としての心配が尽きません。一方で、従来型の大きなお家でみんなで暮らすシェアハウス型のグループホームでは、プライバシーの確保が難しく、周囲との人間関係の摩擦に疲れ果ててしまうケースも少なくありません。

そこで、ゆいまちが選択し、提供しているのが「アパート型グループホーム」という、新しい暮らしのカタチです。

①:プライバシーの確保と、安心の常駐見守り体制

アパート型グループホームの最大の特徴は、玄関、キッチン、お風呂、トイレがすべて各部屋に完備された、完全なワンルーム(1R)仕様であることです。

「自分だけの鍵があり、自分だけの空間がある」

この“自分のお城”を持つことは、当事者にとって信じられないほど大きな自己肯定感をもたらします。「自分の部屋を綺麗に保とう」「自分で好きなテレビを観よう」という、小さな暮らしへの責任感と自立心は、ここから芽生えるのです。

一方で、完全に一人ぼっちで放置されるわけではありません。 同じアパートの敷地内には、日中はもちろん、夜間もスタッフが常駐しています。「1人になる時間はしっかり確保されているけれど、何か困ったことや不安なことがあれば、いつでもドアを叩けばスタッフがそこにいる」。

この「つかず離れず」の絶妙な距離感こそが、一人暮らしの不安と、集団生活のストレスを同時に解決する鍵となっています。日々、スタッフが「元気かな?」「ご飯は食べられているかな?」とさりげなく見守り、小さなSOSや表情の変化をキャッチできる環境を整えています。

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②:「資産」ではなく、人生を伴走する「チーム」を残す

多くの親御さんが、「自分が死んだら、この子にお金や家を残さなければ」と必死に貯蓄をしたり、財産管理の計画を立てたりされています。もちろん、それはとても大切なお金です。

しかし、親なきあとにご本人にとって本当に必要なのは、お金という「物」だけではありません。どれだけお金があっても、それを本人が適切に使い、管理できなければ、時に悪質なトラブルに巻き込まれるリスクすら生じます。

親なきあとに最も残してあげるべき大切なプレゼント。 それは、「本人の特性を誰よりも理解し、転びそうになったときにそっと手を差し伸べ、これからの人生をずっと伴走してくれる『支援のチーム』」です。

ゆいまちは、単なる「部屋(ハコ)」を提供するだけの場所ではありません。 ご本人を中心として、相談支援専門員さん、就労先のスタッフ、医療機関、そして私たちゆいまちの支援員(世話人)が一体となり、親御さんがいなくなった後もバトンを受け取って、ご本人の暮らしを支え続ける。そんな「最強のチーム」を地域の中に構築することこそが、私たちの本当の使命だと考えています。

まとめ|グループホームは「預ける場所」ではなく「共に自立へ歩む第一歩」

「そろそろ、グループホームへの入居を考えた方がいいのかな……」 そう頭をよぎったとき、多くの親御さんが、胸を締め付けられるような強い罪悪感を抱かれます。

「自分が育児を楽にしたいから、我が子を外に放り出してしまうのではないか」 「これまでずっと一緒にいたのに、冷たく見捨ててしまうように思えてしまう」

どうか、そんな風にご自身を責めないでください。 グループホームへの入居は、決して子どもを「預けっぱなしにして、手を引くこと」ではありません。親御さんが「すべての責任を一人で背負い込むフェーズ」を無事に卒業し、「これからは頼れるプロのチームと一緒に、我が子の自立と成長を少し離れた特等席で見守り、楽しむフェーズ」へ移行するための、極めて前向きで、温かい第一歩なのです。

家族だからこそ注げる、無条件の愛情と「お帰り」という言葉。 そして、家族じゃない第三者のプロだからこそできる、客観的な見守りと「やってごらん」という自立へのアプローチ。

この二つの輪がパズルのように噛み合って初めて、お子さんは「親の所有物」ではなく、「一人の独立した大人」として、自分の人生を堂々と歩み始めることができます。

今日まで、十分に、本当によく頑張ってこられました。 そろそろ、肩の力を少しだけ抜いてみませんか。 これからのご本人の人生、そして親御さんご自身の人生を、もっと明るく、笑顔の多いものにするために。「ゆいまち」というチームが、いつでもあなたのすぐそばで、新しい一歩を温かく応援し、お待ちしています。

この記事を書いた人:島崎慎吾

不動産会社代表・ゆいまちとひとり運営者。創業28年の不動産グループで培ったノウハウを活かし、2026年4月に岐阜市初のワンルームアパート型グループホームを開設。実際に管理者としてグループホームを運営し、リアルな情報を発信するために「障がいがあっても好きな街で暮らせる社会」を目指して活動しています。

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